清滝 美津子(きよたき みつこ)さん
穴水町出身。高校卒業後は県外へ進学、就職。結婚を期に石川県に戻り、金沢市での生活を経てUターン。穴水町慶得寺の蔵を改修し、ギャラリーショップを開業。
(2017年1月インタビュー)
16年前にUターン、慶得寺の坊守に
この寺のさらに奧にある10軒ほどの村に生まれて、高校まで過ごしました。卒業後は県外の大学へ進学して就職。その頃は神奈川県にいました。
夫が地元の同級生なんです。たまたまお寺の人で。ご縁があって結婚することになり、石川に戻ってきました。10年ほど金沢にいましたが、16年前に夫の父が病気を患ったことで、いよいよ帰ることを決めました。それから1年で父が亡くなり、夫が住職になりました。
きっかけは「いき工房」、人が集まる場づくり
地元に帰ってきたばかりの頃、知り合いはそんなにいないし、出かけていく場所がなかったんです。そんな時に「NPOいきいき作業所」にボランティアに行くようになってから、自分にとって一番身近で行きやすい場所が出来ました。
いきいき作業所では古い布を活かした「裂き織り」のアイディアを提案して、織り上げた布から雑貨やカバンをつくりました。今度は製品を販売するお店が必要だということで、仲間と一緒に「いき工房」というお店をつくり8年間運営していました。ボランティア仲間とローテーションを組んで店番をして、そこに利用者さんがスタッフとして来て、お客様とも交流できる場ができたんです。
足元を見つめなおし、お寺をもっと身近な場に
その時に、やっぱり自分が大事にしないといけない場所は、自分が住んでいるお寺なんじゃないかなって思ったんです。 だんだん門徒さんが少なくなり、昔は信心深いおじいちゃんやおばあちゃんがよくお参りにいらしていたけど、今はそういった方は少なくなりました。1年365日あっても、お参りで使うのは年間10日あるかどうか。それ以外の日は、悲しいけどただの風景になってしまっているんです。お寺に人が集まってこないのが一番さみしいことだなって。
やっぱりお寺はもっと身近で、人が行きやすい場所であってほしいと思ったんです。お店のように「こんにちは」って気軽に来ていただけたら嬉しいし、いらっしゃる方も敷居が低いんじゃないかな。
能登半島地震で被災した蔵をギャラリーショップに
あの時の地震で、この寺の蔵はほとんどが痛んでしまいました。周辺のお宅でも蔵の被害は多く、修理したり潰してしまう方がいる中で、うちの蔵だけが壊れたまま7年ほど放置してあったんです。ブルーシートをかけた状態で、そのうち雨水が入ってきて。いよいよ何かしないといけない。また物置にしてしまうのはもったいないと思ったんです。「だったらここをお店にしちゃおう」と、改修がはじまりました。
コンセプトは「いき工房」と同じように「気軽に人が集まれるお店」です。1階はショップにして、石鹸、雑貨、フェアトレードの品、ハンドメイドの品。2階はギャラリースペースを設けて、ガラスや手織りの布を置いています。
ご縁がつながった新しい交流のかたち
2015年3月のオープンから2年。お店に来てくださる方は移住された方が多いんです。私が穴水に帰ってきた時のように、行く場所がない気持ちをもっているんじゃないかなと思ったんです。「ここに行けば誰かと出会える」、そういう場所があったら、田舎がもっと生きやすくなるんじゃないかなって、そんな気がします。
能登ってよく「ご縁」という言葉を言うけれど、不思議といいタイミングで出会うんです。「てらカフェシャンティ」は、そんな出逢いでつながった仲間たちと、この場所からはじまりました。ゲストを招いたトークイベントやワークショップなどを不定期で開催し、新しい交流のかたちもできました。
シンプルにお客様を迎える場所
特別なことじゃないんですが、この場所をつくってよかったと心から思います。来られた方が楽しそうに話していて「心地いい」って、そう言ってもらえることがすごく幸せ。嬉しいです。「ここは繭玉みたい」って言われる方もいらっしゃるんです。蔵が持っているちからなのかも。地震で壊れる前は、蔵は真っ暗で私にとってはあまり行きたい場所じゃなかったんです。今はすごく、気持ちがいい空間になりました。建物も喜んでくれている気がします。
私はシンプルに場所を用意しているだけ。裂き織りやハンドメイドの品、作家さんの作品。それらを含めたここなんです。自分の好きなもの、好きなことをやっている時って、いい空気になりますよね。
すぺーすてら
穴水町下唐川ト219 慶得寺内
TEL.090-2092-3529